
推し活が生きがいの彼女。しかし…
仕事が楽しく 毎日が充実。しかし…
Kさんは、あるK-POPグループの中のひとりに推し活をしています。あまりメジャーなグループではないため、配信ライブでの投げ銭やファンクラブが主な収入源だそうです。
彼女は推し活のおかげで仕事も楽しく、毎日が充実しています。実家住まいなので、ひとり住まいの方よりお金には余裕があるはずなのですが、しかし推し活の影響で常にお金がない状態。
また、話をしていくうちに心を開いてくれた彼女の口からは、母親からは100万円の借金をしていること、加えて母親以外にも200万円近くの借金をしていることを聞かされました。もちろん母親には内緒です。
心は満たされていく一方ですが、増えていく借金を前に、本人にも将来に少し不安な気持ちが出てきました。推し活をはじめたころは、そんな不安もなく、彼を見ているだけで幸せでした。投げ銭なんてする気持ちは、はじめは全くなかったと言います。

名前を呼んでもらえることがこんなに嬉しいなんて!
Kさんは投げ銭にあまりいいイメージを持っていませんでした。路上で活動する大道芸人や素人ミュージシャン、その方たちを賞賛する機会があり、お金を渡そうとしましたが、その時に「お金で支援」ではなく、「お金を恵む」ような感覚をKさんが感じてしまい、それ以来、Kさんは投げ銭が苦手になりました。
しかしある日、他の方が投げ銭をしている行動をみて、私も少しだけ投げ銭をしてみようと思いました。わずかな金額だったからできたのでしょう。しかし彼は気づいて、「Kさん、ありがとう!」と名前を呼んでお礼を言ってくれたのです。
「名前を呼んでもらえることがこんなに嬉しいなんて!」。
これがきっかけとなり、Kさんは課金の沼に沈んでいくことになるのです。

生配信ライブのあるたびにKさんは参加し、投げ銭をするようになりました。ところが、何回かライブに参加するたびに、少し違和感を感じていました。投げ銭の額が多いほど、推しからの「名前呼び」に差があるのです。
「Kさん、ありがとう!」
「○○さん、いつもありがとうございます。愛してるよー!」
ぐらいの差です。しかしKさんにとって、この差は大きすぎたのです。Kさんは悔しくて、悲しくて、ギアを一段上げることにしました。投げ銭の増額です。
…と言っても、この時点ではまだ趣味の範囲で済む金額でした。
とある国で開催するオフ会に参加することに
ある日Kさんは、会社に3日間の有休申請を出し、推し活のグループが活動する海外の、とある国で開催するオフ会に参加することにしました。
参加者は80名ほど。全員が首から下げるタイプのネームタグをかけ、そこに国籍とハンネが書いてありました。参加者のうち日本人は半分ぐらいだったそうです。
日本人の中には、いつも大量の投げ銭をする有名な女性がいました。ハンネですぐ分かりました。その方は派手な容姿ではなく、特に大金持ちのようなイメージはなかったということです。また、その方ほどではないけど、投げ銭額の上位常連の方々もいました。
驚いたのは、一緒に写真を撮ったり握手をしたりするのは一般人だけで、投げ銭が多い人には、あきらかに2人きりで話す時間が多かったり、肩を抱いて何枚も写真を撮ったり、他の人とは扱いが全然違ったことでした。
マネージャーらしき方とも仲良く話していましたし、関係者? 大口スポンサー? 太客? いやいやそんなものではない。仲のいい、恋人のように見えました。その時Kさんは、なんだかモヤモヤした気持ちのまま帰国の途につきました。
ついにランキング入り!
帰国してからは仕事に戻り、普段の生活がまた始まりました。でもやはり、あの時感じたモヤモヤはいつまで経っても消えませんでした。
ところが、徐々に金額を上げていくと、上位組も同じように金額を上げてきました。最初は月1万円程度だったのが、上位組と競ううちに5万円、10万円とあがっていきました。月30万円を超えたころ、Kさんは投げ銭ランク10位以内の常連になっていました。
そしてある月、上位組に何か事情があったのかどうかわかりませんが、上位組のライブ参加率が減り、Kさんは特に投げ銭の上限を上げたわけではないのに、全国ランキングの3位になってしまいました。

彼女は学生のころから競技や勉強でも、いつも下のほうの順位だったらしく、今回のランキングで全国3位になれたことが嬉しくて嬉しくて寝られなかったと言います。
ところが。。。
たった1か月だけですがランキング上位に簡単に名前があがったことで、Kさんはこの後、どん底の生活を味わうことになるのです。
沼に落ちていくと なかなか止まらない推し活
そのうちゲームになっていき…
次の月からますます投げ銭の金額はエスカレートしていき、月50万円を超えるのが当たり前になりました。そして月末ごろ、複数のクレジット会社から請求が届く。これを繰り返すうち、貯金では支払えなくなって、リボ払いに変更。しかしそれも長くは続きません。リボ払いさえ厳しくなり、キャッシングを利用するようになりました。
その後、キャッシングが限度額に達してしまい、もう借りられなくなった彼女は母親にたのんで借金をします。母親には他での借金は言うと心配をかけるので、黙っていました。
ただ、推し活に使うことは伝え、ちゃんと返すからとお願いしたそうです。母親は「ご利用は計画的に。」とどこかのキャッチフレーズと同じ言葉を放ち、気持ちよく貸してくれたそうです。
そして以降、Kさんには「投げ銭」=「現金」という感覚はなくなっていったと言います。ただポチポチとマウスをクリックするだけで、ランキング上位になれる。こんな幸せなことはない。
そのうちKさんにとって、彼の反応はあまり関係なくなり、投げ銭競争ゲームになっていました。もともとゲームがあまり好きではなかったKさんだったのに、たったひとつの経験がきっかけとなり、課金の沼に堕ちていったのです。