
「“一緒に夢を叶えよう”って言葉、まさか投資の勧誘だったなんて──」
彼を信じて預けたお金は、いつの間にか消えていた。
恋とお金、信頼と欲望。
今回は、ある女性が“投資系彼氏”に騙された、苦い実体験の紹介です。
出会いはマッチングアプリ──夢を語る彼に惹かれて
広島県在住:F・Nさんの場合
彼と出会ったのはマッチングアプリ。
プロフィールには「起業家志望」「自由を追いかけたい」と書かれていて、メッセージのやり取りも前向きで明るい印象でした。
実際に会ってみると、彼は穏やかで聞き上手。
「お金のためじゃなく、好きなことを仕事にしたい」
第一印象がとても清潔で、高級時計を身につけ、オシャレな外車に乗り、高い理想を語る彼に、私はすっかり心を奪われてしまいました。

当時、私は仕事に少し疲れていて、「自分を変えたい」と思っていた頃。“夢を追う彼”は、そんな私にとってさらにまぶしい存在でした。
始まりは小さな投資話からでした
「一緒に夢を見よう」
交際を始めて3か月ほど経った頃、彼が「実は知り合いが新しいプロジェクトを始める」と話してくれました。
「これが成功すれば、二人で自由な生活ができる」
「少額から始めてもいいし、僕も出資するから安心して」
彼の誠実な話し方に、私は疑いを持ちませんでした。お金の話をする時も、真剣なまなざしで「一緒に頑張ろう」と言う彼。
“恋人として支えたい”という気持ちが、冷静な判断を奪っていたのです。

すぐにお金が増えた!
私は貯金の一部──50万円を出しました。
「これで二人の夢が近づく」と、本気で信じていました。
それからちょうど一週間後、彼は私に60万円を返してくれました。
「投資期間が伸びそうなんだ。少しだけど増えた資金を一度返しておくよ」
預けただけのお金が、たった一週間で10万円も増えて返ってきたのです。そして一週間後、彼から「まだ増えそうな勢いだから、もう一回同じ額を預けてみないか?」と誘われ、また50万円を渡しました。するとまた一週間に60万円になって返ってきました。「いい調子なんだ。でも借りっぱなしはイヤだから一度返しとく。大切な君のお金を借りたままじゃ気になるから」と言われました。

お金は増えたのに謝罪?
それから約二週間後、また彼は「なんか調子よすぎるみたい。こないだのお金、返さないでそのまま預けとけばもっと増えてたかも。ごめん、見切り違いだった」とお金は増えたのに謝罪されました。私からすればなんの被害もなく、むしろ何もしなくてたった二週間で20万円も増えたのですから感謝しかありませんでした。この謝罪の一件で、私は彼に対し「お金のことにキッチリしていて信用できる人」というイメージを持ちました。
彼はこう続けました。「ボクはこのあと1,000万円ほど預けようと思うんだけど、ボクの名義で今度は300万円ぐらい預けてみない?」と誘われました。「もし少しでも減ったらボクが補填してあげるからさ」
補填してあげる、とまで言われたので断りにくくなりました。50万円を2回預けましたが、すぐに戻ってきたし、20万円も増やしてくれたので、お金を渡すハードルが低くなっていました。結婚資金として貯めていたお金がちょうど300万円あったので、私は彼に渡しました。

「あと一か月で終わるよ」
10日後、彼から連絡があり「あの300万円、順調に増えているよ! ボクも投資金額を増やしたからメチャクチャ増えたよ! 今度またぜいたくなデートしようね。クリスマスにカバンを買ってあげるよ」と言われました。とても嬉しかったのです。
彼はそれから「もうこの投資はあと一か月で終わるから、こないだボクは有り金全部預けたよ。年末には終わるから、戻ってきたら新年には旅行に行けるよ」と具体的に計画を告げられました。
私はそんなに余裕資金を持っていなかったのですが、「短期間」という言葉につい安心してしまい、また「カバン買ってあげるよ」という言葉に彼の気遣いもブラスされ、残りの一か月をワクワクする気持ちで待ちました。

少しずつ見え始めた“違和感”
3回目の投資の話をされてから彼は忙しそうになり、LINEのやりとりが減っていきました。
「今は準備期間だから忙しいんだ、ごめんね」と言われるたびに、私は信じて待ちました。
でも、一か月を過ぎても送金したお金の詳細は説明されず、「資料をいま作成中だから待ってて」とごまかされ続けたのです。
彼と出会ってからしばらくのあいだ、私もSNSをずっとチェックしていなかったのですが、ある日何気なく彼のSNSを見て違和感を覚えました。
「仲間と次のプロジェクトへ!」という投稿の写真に、見知らぬ女性が複数、彼の周りで笑っていたのです。胸の奥がざわつきました。
“私が出したお金、本当に投資に使われているのだろうか?”
それでも私は、まだ「信じたい」と思っていたので彼からの連絡を待ちました。

真実の発覚──“夢”の正体はマルチ投資ビジネス
ついに決定的なことが起きました。
知人から連絡があり、「彼、マルチ商法っぽいセミナー開いてたみたいだけど知ってる?」と聞かされたのです。知人から教えてもらった情報で検索をすると、“詐欺被害掲示板”に、彼とよく似た人物の写真が掲載されていました。目のところは黒く塗りつぶされていましたが、髪型や服、腕時計を見るとあきらかに彼でした。
“投資名目で金銭を集め、音信不通になる”──まさに私のケースでした。
慌てて彼に連絡しましたが、LINEは既読にならず。電話もブロックされ、SNSアカウントも削除済み。
あの「夢を追う瞳」は、私を信じ込ませるための演技だったのです。
私が失ったものと、残ったもの
警察に相談しましたが、たがいにつきあっていた時期の問題なので取り合ってはくれませんでした。現金を手渡ししていたので証拠もなし。いろんな手を尽くしましたが、仮に見つかっても相手の手口を「詐欺だ」と立証するのは難しい、とのことでした。おまけに私も増えた分のお金を受け取っていたわけですから、詐欺の片棒を担いでいたかもしれないと思うと、罪悪感すら出てきました。
お金を失ったこともつらいですが、何よりも、自分の“信じる力”を失ったことのほうがつらかったです。恋と信頼を同じものと勘違いしていたのだと思います。しばらくは、何も信じられなくなりました。
あれから2年が経過したいま、あの事件について、少し見方が変わりました。
「騙された」という経験は、恥ではないと気づいたのです。

信じたいという心は、人として当たり前の感情です。ただし、恋愛とお金は絶対に切り離すべき。愛しているからこそ、お金の話には冷静でいなければいけません。
彼を恨む気持ちはもうありません。それよりも、この経験を通じて“人を信用するリスク”を知ることができた自分を誇りに思います。
実はあのとき、「もしよかったら友だちにも紹介してあげたら?」と言われていました。でもその時はたまたま友だちが体を壊していて通院していたので言わなかったのです。もし友だちも巻き込んでいたら、お金と一緒に友だちも失くしていました。不幸中の幸いでした。
最初から仕組まれた作戦だった
気づいたことと反省点
「増えたよ」と言われて10万円を2回受け取ったことが、そのあとの追加投資を断りにくくされていた(共犯意識?)
いくら投資の話でも最初から300万円と言われていたらきっと断っていた。最初に50万円渡す→60万円になって返ってきた…で完全に信用してしまっていた
知らないうちに、お金の話に触れることがタブーな空気が作られていた
質問することで「ボクの話が信用できないの?」と言われそうな空気を作られていた
「ぜいたくなデートをしよう」「プレゼントを買ってあげる」という反論できない言葉で主導権を完全に握られていた
まとめ|“一緒に夢を見よう”の裏に隠されたリスク

恋人から「一緒に投資しよう」と誘われたら──。
それは、あなたの信頼を試されている瞬間かもしれません。
本当にあなたを大切に思う人なら、あなたを不安にさせるようなお金の話はしないはずです。
“夢を見よう”という言葉に酔って、お金も心も預けてしまった私。
でも、もう二度と“誰かの夢”に自分を捧げたりはしたくありません。次こそは、“自分の夢”を自分の力で叶えたいと思います。
⚠️(本人には掲載許可を得ています)